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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)86号 決定 1957年12月24日

抗告人 石川商工株式会社 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、別紙記載のとおりであつて、当裁判所は、これについて、次のとおり判断する。

一、本件会社更生申立事件記録中に存する代理委員許可申請書及び委任状によれば、本件更生債権者株式会社宮伝商店外八百七十七名は、東京地方裁判所に対し、有本常次郎、佐藤昌宏、田原秀次、田島暎、湯浅誉雄を、同債権者等の代理委員に選任し、これが許可を申請したこと、これら更生債権者のうちには、抗告人会社も含まれていること並びに同更生債権者等は、前記五名の者に対し、(一)本件更生事件に関し代理委員を選任する件及び(二)更生手続に属する一切の行為を行う件についての権限を委任する旨の委任状を、同裁判所に提出していることを認めることができる。

会社更生法第百六十条第三項は、「代理委員は、これを選任した更生債権者(中略)のため、更生手続に属する一切の行為をすることができる。」旨を規定しているから、前記代理委員等は、所論のように、ひとり通常予想せられる債権の分割弁済に限らず、債権の一部免除又は放棄を内容とする更生計画案の審理議決をも、これを選任した抗告人等のためにすることができ、これがため特に民事訴訟法第八十一条第二項の規定するような特別の委任を受けることを要しないものと解せられるから、理由一はこれを採用しない。

二、所論の株式会社山口商店、株式会社三田商店が、第二、三回関係者集会において議決権を行使したのは、それぞれ佐藤武志、稲川直孝を代理人として、これをなしたものであり、また他にも多数の更生債権者が、同集会において、代理人によつて議決権を行使したことは、同集会の調書及び委任状の記載に徴し認め得るところであるが、これら代理人は、当期日において更生債権者を代理して右集会に出席し、意見を述べ議決権の行使をなしたもので、所論のように会社更生法第百六十条にいう代理委員に選任されたものでないことは、また右調書及び委任状の記載に徴し明白であるのみならず、裁判所はこれら代理人の権利の行使を有効と認め、爾後の手続を進行せしめたものであるから、裁判所は、これら代理人の選任について許可を与えたものと解するのを相当とし、理由二も、到底採用することができない。

三、代理委員の権限は、前記一において述べたように法律の定めるところであるから、更生債権者が代理委員を選任するに当つては、同人等において債権の一部免除を内容とする更生計画案を審理、議決することも、当然に予想しなければならないところであり、一方本件更生計画案において、一般更生債権者に対する権利の変更及び弁済方法に関する定めは、一見やや苛酷の感を禁ずることはできないが、管財人及び代理委員等が、数次にわたり裁判所に提出した更生計画案の内容と、その作成の経過とを仔細に検討すれば、同計画案は、会社更生法第二百三十三条の要件を具備しているものであることが認められるから、代理委員がこの限度における更生計画案を審理、議決したことを以て、抗告人その他更生債権者等の同委員の選任が、要素の錯誤により、無効であるとは解されない。

四、前記第二、三回関係人集会の調書及び委任状によれば、当期日に議決権を行使した更生債権者株式会社阿部電機工業所外五名の者は、管財人池田徳治を代理人として、同集会に出席せしめ、更生計画案の審理及び決議をなさしめたことを認めることができる。しかしながらこれら池田徳治の代理による行為が、仮りに抗告人等主張のように無効であつたとしても、これら六名の者が有する議決権の額の合計は金百三十万七千二百四円に過ぎず、同日同意を得た議決権の額の総数は、これを全部控除しても三億七千八百九十六万九千百八十五円六十五銭に達し、裕に議決権の三分の二の額三億六百四十三万八千九百八十九円を超ゆるものであるから、このことは、同集会における更生計画案の可決の効果に消長を来すものではない。

なお抗告人は、債権者等が更生会社からの要請によつて直接更生会社に委任状を送付し、これらの委任状については、更生会社の社員その他の者が代理人となつているから、これらの者の代理行為も無効であると主張するが、右事実は、これを明認するに足りる証拠がないばかりでなく、あらかじめ更生計画案の送達を受け、これを了知した債権者等が、右更生計画案に同意して、ただ関係者集会に出頭すべき代理人の指定のみを更生会社に委託した、いわゆる白紙委任状を更生会社に送付して来たことは、世上普通にみる同種の事業に鑑み、容易に想像されるところであるが、かかる場合、更生会社が右委託の趣旨に従い、社員その他適当の者をして、代理行為をなさしめたとしても、本人の保護には欠けるところがなく、あえて所論のように、これを無効としなければならないものとは解されない。

以上抗告人等の本件抗告理由は、いずれもその理由がないから本件抗告はこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定した

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

別紙 抗告理由書

一、両申立会社を含む単に左記五名の者に対する代理委員許可申請書に捺印した者全員は、代理権限を証する委任状を裁判所に提出していないし、代理委員と称する有本常次郎、佐藤昌宏、田原秀次、田島暎、湯浅誉雄の五名にもかゝる委任状を付与していないのである。それは将来更生計画案が作成されてから検討の上、改めて裁判所に提出するつもりであつたからである。

およそ裁判所の招集した債権者集会に於て更生計画案に賛否の意見を述べることは訴訟行為である。(位野木益雄氏会社更生法要論一六四参照)

又通常予想せらるゝ債権の分割弁済の更生案では特別の委任は要しないが債権の一部免除又は放棄を内容とする更生計画案に賛成の行為をなすには、民事訴訟法第八十一条第二項の請求の放棄、認諾は特別の訴訟委任が必要である立前からも、会社更生法第一六〇条第二項に「代理委員の権限は書面でこれを証明しなければならない。」との規定の上からも、特にその旨の代理権限を記載する委任状が必要であると謂はなければならない

何となればこれを以つて代理委員に対する本人の委任の趣旨及び範囲が明らかとなるから裁判所も本人に代つて其代理委員の監督が出来るからである。若し其授権した権限の範囲を証する証明書を必要としないとするならば民事訴訟法第八十一条第二項の委任者を保護する趣旨が滅却せられるからであり、委任する者を保護する必要は通常の訴訟委任の場合も会社更生法に於ける場合も何等区別すべきでないから、この場合も当然かゝる特別委任が必要であると共に少くとも其の趣旨の委任状を要するとするのが会社更生法第一六〇条第二項の趣旨であると謂はねばならない

そうであるとすると、原裁判所は委任を証する書面のない殊に重要な事項につき代理権限を証明する書面を欠如する本件に於て、第三回債権者集会に於ても代理委員としての、債権者に苛酷な債権額の八八%の債権免除をし更に其内三四%を株式にて交付し残額即ち全額の七、九二%を三年間に弁済するとの更生計画案に対してなした、賛成の行為を有効なりとして、本件会社更生計画案が可決せられたと違法な認定をなし、その結果、原決定がなされたのであるから原決定は当然取消さなければならない

二、原決定には多数の債権者の委任状(例株式会社山口商店、株式会社三田商店等)に基く代理人が第三回債権者集会に於て本件会社更生計画案に賛成の意思表示をなして居り、其賛成を原裁判所は有効なものとして、本件会社更生計画案が右集会で合法的に可決せられたとし、もつて原決定がなされたものであるが、右全部の委任状に基く代理人には原裁判所は会社更生法第一六〇条第一項に基く代理の許可を与えた証拠がなく、従つて裁判所の許可のない代理人が右債権者集会に出席して意見を述べ更に賛成に加はつたのであるから右集会は違法であり、又従つて右会社更生計画案に対する賛否の決定は違法であり、引いては原決定は違法である

三、一般更生債権者に対する債権元本(利息は全免)の八八%を免除切捨て残額一二%中其三四を新株式にて与え全額の七、九二%の金額を三年間に弁済するとの本件更生計画案は左の如く甚だしく不当であつて、申立会社等の代理委員選任許可申請もかゝる過少額の弁済のみを以つて満足する案に賛成することを委任する趣旨ではないのであるから、右を以つて仮にかゝる委任がありとするも、右委任に関する許可申請は申立人等の委任につき要素の錯誤があつたものであるから無効である

(1)  更生計画案七八頁に示されている経過状況によると昭和三十三年度以降は遂年利益を漸増し昭和四十一年度には五七、八八八、〇〇〇円の利益が計上されている。この計算によると株主に配当することを遠慮すれば(多少の配当も可能であるが)莫大なる利得を一般債権者に弁済し得るのであつて、七、八年間分割弁済せしめれば大体債務元本の全額を完済し得る状態であつて、一般債権者に僅か八分弱の配当をなし残額約九二%を免除せしめるという本更生計画案は更生会社と一部債権者及代理委員数名の通謀による債権踏み倒し案であつて不当至極のものである

(2)  若し本件更生計画案について、具体的に一般債権者につき其賛否を調査すれば殆んど大体の債権者はかゝる債権者に苛酷な案に賛成する道理がないのである

かゝる案が更生計画案として認可をせられんか、会社の破産を目前に控えてこれを秘して、取引しかゝる取込み詐欺と認められる様な取引で多額な債務を負担した更生会社が本決定によつて、債権を合法的に免除されて不当な利益を得たことゝなるのであるから、申立人等がかゝる案に賛成することを代理委員に委任したのではない。若し仮に委任によつて右代理委任によつて右代理委員にかゝる権限があつたとすれば、申立人等の右代理委員に対する委任は要素の錯誤に出したものであつて無効である

従つてその委任の無効に基く代理委員の訴訟行為は無効であつてそれによつて債権者の過半数の賛成を得たとして原裁判所が更生計画案を可決した旨の決定をしたことも違法であり、それに基いて為された本更生計画案認可の決定は違法であつて取消さるべきものである

而かも右委任の無効の理由は代理委員選任許可申請をなした殆んど全部の債権者に於いてもある点も充分顧慮さるべきである(この点はいつにても立証する。)

四、本件普通債権者中多数の債権者(例阿部電気工業所、協立建設株式会社等)は本件更生会社の法定代表者である管財人池田徳治に委任状を以つて債権者集会で会社更生計画案に賛否の委任をなし裁判所は右委任について許可を与えていないが債権者集会で本件更生計画案に賛成の訴訟行為をなさしめているのであるが、右は前記第二項の許可なき事由で無効であるのみならず管財人は更生会社の代表者である以上、普通債権者の代理人となることは民法第一〇八条の双方代理となり無効と謂はねばならない。其無効の従つて無権限の代理人のなした賛成をも適法としたゝめの原決定は違法であつて取消さるべきものである

更にこれ等の他にも更生会社からの要請によつて、直接更生会社に委任状を送付した債権者が多数あつてこれ等は社員其他の者をして代理せしめているのであるから、本件の委任状による代理は殆んどそれに該当し民法第一〇八条違反のものである

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